自腹で買った本当に面白い作品のレビュー、今回は江口尋さんの「金曜日のベイビーヴァイオレット」です。各電子マンガサイトで単話版が配信されているほか、紙・電子で単行本化もされています! このレビューが、購入の参考になれば幸いです。
あらすじ
通販会社で働くデキるOL・水野すみれには秘密の趣味がある…それはエッチでカワイイ下着の自撮りをSNSにアップすること! けれどもストレス発散のためのアカウントが取引先のデザイナー・村崎にバレてしまって!?
黙っている条件で村崎から持ちかけられたのは仕事で使用する女性用エロ下着のモニターモデル。村崎が作った下着の試着をして着心地や機能性を確かめることに。それに了承して上乗せですみれから出した条件は、
「私とセックスしてください」
エロ垢持ちでも実は隠れ処女のすみれは、これを機に脱処女できるかもと意気込んで…!
ホテルでふたりきり、エッチな下着の上から敏感なカラダをイジられて。処女のまま煽られオ●ニーや着エロプレイで感じまくってしまい…♪
毎週金曜日に深まるラブエロチックストーリー開幕!!
https://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/2136701
ヒーローが下着デザイナーだからこそ……の物語
江口尋さんの作品は、「説得力」がすごいんです。特に「キャラクターの職業」をさらりと、そしてしっかりと説得力を持って描き、物語に組み込んできます。
今回レビューする「金曜日のベイビーヴァイオレット」は、下着デザイナーのヒーローと裏垢でHな自撮りをしていたOLのティーンズラブ。
マンガにおけるキャラクターの職業って箔を付けるためだったり、キャラクターを表す特徴・属性の1つにすぎなかったりもしますが(それはそれで全然OK!)、「金曜日のベイビーヴァイオレット」では下着デザイナーという職業が物語と密接に紐づいています。
下着デザイナーとして悩み、スランプを感じているヒーローが、藁にもすがる思いでHな下着の自撮りを載せているヒロインに下着モニターをお願いして……というのが物語の導入。
具体的に、ヒーローの悩みとは何か。
「売れる下着が作れない」ということです。
そんな悩みをヒロインとともに少しずつ解消していくわけですが、そもそもマンガでファッションを題材に描くのはかなり難しいと思っていて。
というのは、例えば「ほどよいアホエロ感のある下着」って言葉で書くのは簡単ですけど、実際に絵で表現するって難しいですよね。言葉だと読者が脳内で勝手に「それぞれのほどよいアホエロ下着」を想像してくれますけど、絵にするときは「ある程度の読者を『これはほどよいアホエロ下着だ』と納得させる下着」を描かないといけないから。
そんな難題に果敢に挑戦してるのが「金曜日のベイビーヴァイオレット」です。
デザインの説得力だけではなく、「セクシーテディ」「オープンクロッチ」といった下着の形状、「フリース」「シャギー」など素材名など、具体的な固有名詞が作中に出てくることでより説得力が増します。
全然下着に詳しくないけど面白く読めました!
ヒーローの悩み、そしてその解消の描き方に説得力があり、読んでいて納得と共感を得られるからこそ、ぐいぐい惹き込まれるんだと思います。
だからヒーローが自分でも納得する下着を作れたときの感動が、けっこうダイレクトに伝わってくるんです。TL……というかマンガを読む醍醐味の1つですよね。
江口尋さんは職業を描くのがすごく巧みで、「×××レクチャー」ではセクシー男優、「いいなりビスポーク」「ひたむきビスポーク」では俳優とお針子、「好きいろキャンバス」では芸術家が登場しました。どれもきっと取材をしたり詳しい人に聞いたり江口尋さんの得意分野だったりするんだろうな……という説得力のある描写だったので、そちらもぜひ。
本番をせずともTLとして物語が面白い
キャラクターもめちゃくちゃいいんです。
下着デザイナーのヒーロー・村崎は、“一見”根が明るいかわいい男子。
「一見」と書いたのは理由があります。ぜひ本編を読んでください。大好物でした。
目つきが鋭くて、眉毛の動きと相まって表情豊かで見てて楽しいです。
ハーフアップでヤンチャな感じでモテそうで、現実にいそうな雰囲気。
スパダリのように現実感のない存在ではなく、実際にいそうだからガチ恋しそうになる……。
ヒロインのすみれは裏垢でストレス発散しつつ、表では仕事ができるOLです。
村崎がすみれに下着モニターのお願いをしたことから2人の関係が始まっていくわけですが、中盤までヒーローとヒロインは本番をしないんです(その本番もちょっと中途半端で終わる)(エロいことは序盤からいろいろする)。
これはTLではけっこう珍しい事態(笑)
ほとんど挿入せずに1巻分持たせるのがすごい。
本番をせずともTLとして物語が面白いってことですから。
「金曜日のベイビーヴァイオレット」は第2巻にあたる、「金曜日のベイビーヴァイオレットRE:PLAY」も刊行されています。
たぶん1巻には巻数表記がなかったのでもともと2巻を出す予定はなくて、人気だから続きを出せたんじゃないかと思います。
すごくおすすめなので、ぜひ読んでみてください。
私はKindle版を買っています。
「金曜日のベイビーヴァイオレット」以外だと、「×××レクチャー」と「いいなりビスポーク」「ひたむきビスポーク」と「好きいろキャンバス」が収録されているこの単行本が、江口尋さんの魅力を味わえると思います。