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大人が読者なのに、なぜ“ティーンズ”ラブなの?

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目次

Teensはいないけど“ティーンズ”ラブ

TLは性表現に重点を置いた男女愛を描くことが多い、女性向けマンガのいちジャンルです。

TL(ティーエル)は「ティーンズラブ」の頭文字をとった略語ですが、「Teens」(10代)は読者層としてあまり想定していません(そもそも18禁の作品もある)。

TLレーベルのキャッチコピーを見ても、「オトナ / 大人」というワードが頻出しています。例えば「オトナが濡れる甘い恋」(Pomme Comics)や、「オトナ女子に贈るキラめく恋愛コミック」(オパールCOMICS)などです。

多くのTLレーベルは、20~40代の女性をメインターゲットにしているのではないかと思います。

読者の年齢ではないなら主人公の年齢なのでは?「ティーンズのラブを描く」、つまり物語のヒロインに10代が多いのかというと、そうでもありません。もちろんないわけではないですが、現代ものだとOLや社会人のヒロインが大半です(ファンタジー系の作品だと若い主人公も多い印象があります)。

ティーンズラブとレディースコミック(レディコミ)の違いは?

では、なぜ“ティーンズ”ラブなのか?

明確な資料が見つけられなかったので、私の推測が多分に含まれてしまうのですが……。1980年代後半から90年代にブームが起こったいわゆる「レディースコミック」の読者より若い世代をターゲットとしていた名称の名残なのではないかと考えられます。

「ティーンズラブ」という言葉の初出やTL初期のことを書いた資料などを読みたく…。もしご存知の方がいたら、教えてもらえるとうれしいです!

レディースコミックは「レディコミ」と言ったほうが通りがいいかもしれません。

定義が難しいのですが、サン出版のComic Amour(コミック・アムール)などをはじめとするアダルト路線の作品を、一般的にレディコミと呼ぶことが多いと思います。

(レディースコミック=大人向けの女性マンガと定義すると、オフィスユーや月刊flowers、メロディなどの掲載作も入ってくると思います。また狭義でのいわゆるレディコミも、2000年代くらいにはDVだったり義実家との確執だったりをメインに取り上げるようになり、アダルト系はちょっと鳴りを潜めた感があります。ただ、今回は特にアダルト路線のものをレディコミと呼びます)

前述した通り、1980年代後半から90年代にレディコミの大ブームが起こりました。私は世代ではないのですが、母親がこっそり隠し持っていました(私のTL好きは遺伝……?)。そのレディコミをこそこそ読んでいた子供の頃の印象なので間違っているかもしれないですが、90年代のレディコミ系は不倫やレイプなどシリアスなものが多く、絵柄も劇画風というかリアルなタッチだったように記憶しています。

私にとってレディースコミック=渡辺やよいというくらい、渡辺やよい作品の印象が強いです。絵に迫力がある……。

レディコミは当時の主婦層に大ヒットしました。なので、それより歳が若い……つまり10代から20代前半の女子に向けた、エロ描写のあるマンガにも需要があると出版社は考えた。それが「ティーンズラブ」という名称の始まりなのではないかと。

左は2002年発売の少女革命、右は2005年発売の恋愛宣言ピンキッシュ。「ティーンズラブ」とは書かれていませんが、どちらのキャッチコピーにも「女の子」というワードが入っています。また「エクスタシー」「エッチ」「LOVE&H」というワードもあり、若い女性向けの性描写のあるマンガ雑誌とわかります。

ぼんやりした書き方になってしまうのは、初期のTLについての資料が見つからないのが大きいのですが、私自身が1990~2000年代のティーンズラブにあまり馴染みがないからです。リアル路線な印象だったのでNot for meというか、オタクっぽい設定を好む自分の興味の対象ではなかったんだと思います。

そして「ティーンズラブ」という名前が残った

一般的にマンガは“共感”を大事にするので、主人公にはそのマンガの対象読者と同年代のキャラクターを据えることが多いです(少年をメイン読者と考えている週刊少年ジャンプ作品だったら主人公は少年が多く、少女をメイン読者と考えている花とゆめ作品だったら主人公は少女が多い)。初期のティーンズラブはティーンエイジャー……厳密に13歳から19歳までの女子をターゲットにしていたかは不明ですが、若い世代の女性をメイン読者層と考えていたのは間違いありません。ジャンルの必然的に、少女キャラの性表現が登場します。

そしてマンガには規制問題があります。いわゆる青少年への有害コミック問題です。出版社が自主規制などを行なっていましたが特に2000年代に東京都の規制が強くなりました。

2010年のはじめ、都知事の諮問機関である青少年問題協議会は「子どもを性の対象にするコミック」などの販売規制のために「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の強化を提言し、これを受けて、東京都は条例改定案を都議会に上程した。改定案は、18歳未満の「非実在青少年」の登場する性描写のあるマンガなどの創作物を「不健全」図書に指定して販売規制を行うという内容だった。

長岡義幸「マンガはなぜ規制されるのか – 「有害」をめぐる半世紀の攻防」より。

そうしてキャラクターは少女から大人になり、作家や読者も変わっていき、“性表現に重点を置いた男女愛の物語”という意味での「ティーンズラブ」の名称が残ったのかなと。

今のティーンズラブはマンガと小説を中心に、現代もの、ファンタジー、SFといったジャンルも、ショタおね、騎士×悪役令嬢、人外×人間などカップリングも多種多様。少女マンガや少女向けライトノベルと似たような読み心地です。ただ、少女マンガや少女向けライトノベルでは、恋愛する2人の揺れ動く“心”がメインに描かれるのに対し、TLでは心に加えて“身体”でもつながるカップルが描かれています。

そしてそこが、20〜40代の読者層に支持されているんだと思います。キスするまで何巻もかかるような少女マンガも大好物なんですが、“その先”を見せてくれるTLも本当によき。どっちも発展して素晴らしい作品を読ませてくれるとファンとして超ハッピーです。

余談ですが、TLが盛り上がっているのは電子書籍の発展が大きいように思います。なかなか大っぴらに買いにくい/読みにくい雰囲気がありますし、一人暮らしなら問題ないですが紙の本だとこっそり買っても置き場所に迷いますからね。その点、電子書籍なら誰にも見られずに買えて、収納場所も取りません。

レディコミの女帝と呼ばれる井出智香恵さんも「レディコミはウェブとの相性抜群」とインタビューで語っています。ちなみにこのインタビュー、抜群に面白いのでおすすめです。

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