もはや「がるまに」の超有力サークルとなった「THE猥談」の新作は、「藤谷さんの寵愛お世話に溺れるまで」。
今回はこの作品をレビューします。

本文59ページに、エロスが詰まっていました。
THE猥談とは
「THE猥談」はサークル名でもあり、ただただエロい読者の体験談「THE猥談」を原案にした成人向けマンガシリーズでもあります。
毎回異なるマンガ家に作画をお願いしているのも特徴で、ぽちたろさんがマンガを担当した「陰キャ彼氏の良くんは私のことを悦ばせたい」は以前にレビューしました。


今回の「藤谷さんの寵愛お世話に溺れるまで」では、ショコラブなどのTLマンガレーベルで活躍する道外コノメさんがマンガを担当しています。
とんでもないTLヒーロー、現る
この話、すごいです。
マルチエンディング制の恋愛シミュレーションゲームだったら、トゥルーエンドではないです。
でも妙に心に残り、“癖”を歪ませるエンドってありませんか?
読後感としてはそれに近いと思います。



つまり「藤谷さんの寵愛お世話に溺れるまで」は2次元の良さが詰まってる話といえます。
3次元では味わえない(味わいたくない笑)ストーリーを求めてるのでビッグカンシャ!って感じです!
物語の性質上、ネタバレがそこまで面白さを損ねる感じではないと思いますが、けっこうネタバレしちゃってるので気になる人はここから下は読まず、がるまにの公式サイトに行ってサンプルページ見てもらえたら!
それだけでも藤谷さんのヤバ度が伝わると思います。
\ 17ページも立ち読みできる /
味も素っ気もなくストーリーを書くと、「彼氏と別れたけど、元サヤに戻った話」になります。
最初に別れた理由は、あまりにハイスペックで完璧な彼氏と凡庸な自分という対比に気後れし、彼は散々甘やかしてわがままもきいてくれるのに自分は「彼に何も返せていない」と考えたから。周囲からの「釣り合っていない」という心ない評価がトドメになりました。
ギブアンドテイクの対等な関係になれない、と考えたのかもしれません。
その後、ヒロインの千穂は自分と釣り合うような別の男性と付き合いますがうまくいかず、すべてをリセットするために東京から福岡に転勤するも、なんとハイスペ元彼・藤谷さんも福岡に異動。
再び2人の関係が始まります。
この藤谷さんがとんでもない男で……!
超絶世話焼き男……と書くとほのぼのしてるように思えますが、ヒロインが玄関で靴を脱ぐ瞬間から、ヒロインの主体的な行動をやんわりと禁じます。
お風呂で体を洗うことや、肌や爪の手入れなどすべての世話を行い、ヒロインをどんどん「何も考えなくていい・何もできなくていい」状態にしていく、管理魔ヒーローなんです。
一度はギブアンドテイクの関係になれないのを心苦しく思い、藤谷さんから離れたヒロインですが終盤はこのギブアンドギブの関係を受け入れます。
というか、他者からの「釣り合っていない」や自分の心の声である「彼に何も返せていない」といった不均衡さから切り離され、2人の世界が完成されます。
一見「支配/従属」の関係にも思えるのですが、千穂はラストにある言葉を伝えます。
千穂が最初に別れを切り出したとき、それは千穂が藤谷さんから逃げたとも言えるし、完璧な彼を凡庸な自分から逃してあげたとも言えます。
千穂にその選択肢はなくなり、2人の関係は純化されていきます。
獲物が罠にかかるのをじっと待っている、遅行毒のような男
乙女向け同人のキモであるH描写もすごい。
だいたい目が笑っていない藤谷さんと、滑稽なほどとろっとろになっている千穂の対比。
2人の再会Hのとき、千穂は奥に入れるのが苦手ではなくなっていました。
そこから管理魔・藤谷さんは離れていた間にほかに変化があったのかを確認するように、決して見逃さないように激しく行為に及んでいきます。
最初と最後に「匂い」というキーワードが出てくるのですが、私は「藤谷さんが好きな千穂の匂い=藤谷さんがすべてを管理している千穂の匂い」と解釈しました。
性行為でもそうじゃない行為でも、自分なしでは生きていけないほどどろどろに甘やかします。
一度は別れを受け入れ、ほかの男と付き合ってもじっと我慢し、ヒロインが転勤したときには付いていき、そこで仕掛ける。
獲物が罠にかかるのをじっと待っている、遅行毒のような男のえっち、ぜひ見てください。
疲れた女に効く藤谷さん
余談ですが、一読して思ったのは「日々の仕事に疲れたときに効くマンガだなー」ということ。
世話焼き管理魔・藤谷さんと、彼に世話をされることを受け入れたヒロインの千穂を見て、「千穂、仕事できるようになりそう」と思いました。
というのは、千穂はエンディング後も仕事はしていて(たぶん…)、そして藤谷さんが家の中ではすべての管理をするので、千穂は何も決めなくていいから。
「認知資源」という概念があって、1日に決断や意思決定をすると減少する「気力っぽいもの」のことを指します。
朝から出勤の服を選んで、仕事で解決策を選んで決断して、昼食を選んで、会議で意見を求められて自分の立場を表明して……みたいに、生きると言うことは大なり小なり何かを決断し続けることなので、「認知資源」はどんどんすり減っていきます。
Facebookを立ち上げたマーク・ザッカーバーグ、Appleの創業者の1人であるスティーブ・ジョブズが、「いつも決まった服を着ている」のは有名ですが、それはそんなことに「認知資源」を使わないためと言われています。
まあ(一概には言えませんが)自分で何かを決めなくていいって楽ですよね。
千穂、絶対に家の中では認知資源が減らないから、仕事に全振りできそう。
仕事でへっとへとになって帰宅し、自分の世話をする気力が湧かずにボロボロになっていく我が身を顧みると、「こんなに管理してくれて『何もしなくていい』って言ってくれる人がいるのいいなあ」と思ってしまうのです。