今回ご紹介するのは、「2巻が発売されたら……」とタイミングを待っていたけど一向に発売されない「ふみちゃんの楽園」です。
我慢しきれずレビューします。
「食べて、眠って、エッチする。」というキャッチコピーの通り、本当におおらかに人間の営みを描いた物語。女性の性欲を気負いなく表現したTLが読みたい人に本当におすすめです。
「ふみちゃんの楽園」はどんな話?
書けなくなってしまった小説家・ふみ。
https://www.fupro-comics.com/detail?uid=Comicbox_bd26fc77aca87a24735df9b49c2a458d
今は田舎の古民家で男と2人、同棲中。
夜のピクニック、川で水遊び、野菜の収穫――美味しいものをたくさん食べて、ゆっくり眠って、気が向いたらどこででもセックス。
それはまるで終わりのない夏休み。
上記は公式ページからの引用なのですが、本当にこの通りの物語です。
主人公はふみという名前で、たぶん小説家で、きっと「凪のお暇」の凪みたいにお暇中なんだろうな〜と予想はつくのですが、それ以外のパーソナルデータはほぼ明かされません(単行本1巻時点)。
青年と田舎の古民家で同棲しているのですが、その青年なんて名前すら不明。
名前だけでなく、ふみと青年の関係をどう定義すればいいのかもわかりません。
TLでは珍しいことですが、たぶん本作において関係に名前をつけることは重要じゃないんです。
「恋人だと思うけど、夫かもしれないしセフレかもしれない」と思いながら読み進めることになります。
描かれているのは、人間の3大欲求を謳歌するふみちゃんの日常。
つまり「ふみちゃんの楽園」は、パーソナリティがわからない男女が美味しそうなご飯を食べて、気持ちよさそうに眠って、2人以外誰も登場しない田舎で気ままにセックスするお話なんです。
「ふみちゃんの楽園」を出版しているのはふゅーじょんぷろだくと。
同人のアンソロやBLの印象が強い会社ですが、2019年にTLレーベル・BABY G-Side、2020年にTLレーベル・Bébéを相次いで創刊し、近年はTLジャンルにも力を入れています。
どちらも独自路線作品が多くて、TL好きとしてかなり注目のレーベルです。下記はすでにレビュー済みのBABY G-Side & Bébé作品。どれも本当に面白いです。
「ふみちゃんの楽園」はBébéの作品。
単話配信だと全12話+番外編で2023年秋に完結しています。
単行本1巻には、1〜7話と描き下ろしのエピソードを収録。2巻もきっとそろそろ発売されると思うのですが……(待てずにレビューを書いた)。
書き忘れていましたが、私は1巻までしか読んでない状態でレビューしてます! この物語がどういう完結を迎えたのか早く知りたいから2巻を全力待機中です。
女性の性欲を当然のこととして描く
「ふみちゃんの楽園」の良さは、Hをめちゃくちゃ日常として描いているところ。
女性の性欲を、ふみちゃんも青年も当然のこととして捉えているところにあると思ってます。
縁側でなんとなくくっついていたらふみちゃんがムラムラして「えっちしたい」と言い、男も「いいね〜しよっか」という軽さ。
TLだとセックスに背徳感があったり、人生が変わる一大事として扱ったり、「こんなに濡れてはしたない」的なことをヒロインが思ったり、ヒーローが言葉攻めしたりしがちです。それはそれで大変美味しくいただいてるんですが、そうじゃない作品もめちゃくちゃ美味しくいただける……ということに気づかせてくれたのが「ふみちゃんの楽園」でした。
TLでは悪役令嬢に転生してからの物語とか、ヤクザに出会ってからの物語とか、初めてのセックスに挑んだりとか「山あり谷ありなドラマチックな非日常」を主軸に描くことが多いと思うのですが、本作は正反対。
花火したり、キャンプしたり、ハイキングしたり、野菜を収穫したり、雨の日に家にこもってたり、そんな「2人だけの大きなアップダウンのない日常」がメインで、そんななかで「人間ならご飯食べるよね?眠るよね?エッチするよね?」と人間の三大欲求をおおらかに描いています。
どっちがいいとか悪いとかではなく、いろんなTLが増えることでジャンルが発展していくので、新しさを感じる「ふみちゃんの楽園」はみんなに読んでほしい!と思ってます。
そしてH表現はマジですごい
Hが日常に溶け込んでる「ふみちゃんの楽園」ですが、その表現は大胆で、かわいくて、切なくて、エロい。
第1話、ふみちゃんは「よいせっ よいせっ」と男のジーンズをズリ下げ、「職人の朝は早い」みたいな真剣な顔で男のTNTNをなでなでもみもみし、「職人の手つきだね」「丁寧に仕上げていきますよ」と気安い応酬をし、体を何度も重ねている男女であることを言外に伝えます。
こういう、「書いてない/説明してないけどこういうことなんだろうな」という表現が多くて、さとまるまみさんのマンガ力の高さがうかがえます。
第4話なんて本当に凄くて。エロマンガ定番の定点観測構図を多用していて、ほとんど引きの構図だから2人の顔がよく見えないんです。表情ってエロを描く際にとても重要だと思うんですが、それを描かなくてもエロい。
そしてダイニングチェアの隙間からのアングルとか、キッチンの水回りの真上からのアングルとか、あんまり見たことない構図で定点観測してて面白い。
第5話は田んぼでどろんこエッチですよ。TLで読んだことなかった。
けっこうTLのなかでも新機軸の物語だと思うので、気になったらぜひ読んでみてください。
2巻、待ってます!