
ジェルネイルが趣味のOL・佐原啓子が、異世界に転移してしまったことから始まるファンタジー。
その世界は魔法が発達していた。特徴的なのは、爪に魔法の素材をペイントすること。
爪に塗った液体や素材で護身魔法、閃光魔法、風魔法、水魔法、爆発魔法などを使い分けているのだ。魔法使いたちだけでなく、ほかの職業の人たちも魔法の爪を使っている。例えば娼婦は快楽と魅了の効果がある爪、治安を守る僧兵は束縛魔法の爪といった具合。
その「魔法の爪」を塗る専門職は「爪塗り」と呼ばれている。佐原啓子ことサーラは、なりゆきで爪塗りの見習いとなったが、趣味を活かしたかわいいデザインは実用性の低い「飾り爪」と揶揄されてしまう。
しかし彼女は挫けず、かわいさを追求しながら魔法使いにとっても実用的なネイルを追求し始める。
最強魔法使いロッコ、魔法使いの弟子ホオ、爪塗りの師匠リドたちとの毎日を通して、爪塗りとして異世界を歩む、お仕事ファンタジー。
↑この「最高なファンタジーが始まるぜ!」みたいな冒頭から、「美形のチート魔法使い」と「苦労性でキレキャラな魔法使いの弟子」がサーラに特別な感情を抱くラブが見どころだよってわからないじゃないですか!!!!
人生舐めプしてる超絶美形魔法使いが情緒不安定になって深夜に会いにきたり、ツンギレ少年とあたたかい交流を重ねていくうちにどんどんデレてきてサーラをめぐって師匠にも対抗意識を持つようになったりするなんて、誰も教えてくれなかったじゃないですか!!!!
って1〜3巻を読み終わって心の中で絶叫しました。
誰かに……かなり吸引力が強い本格ファンタジーとラブな展開の組み合わせが大好きだけど、まだ「異郷の爪塗り見習い」を知らない誰かに届いてほしい……という思いでレビューをします。
読んだきっかけ
私が「異郷の爪塗り見習い」を読んだきっかけは、作者のまるかわさんのこのポストを思い出したからです。
つがい設定とか、異種族だからこそのすれ違いとかが好きな人(わたしだよ)にはドンズバなんじゃないでしょうか。こっちも連載してほしい……続きが読みたい。
ある日、「そういえばまるかわさん、別作品の連載もしてたな〜。お、3巻まで出てる!異世界転移ファンタジーかな、読んでみるか!」と「異郷の爪塗り見習い」をKindleで1巻を買ったら、あれよあれよという間に3巻まで読み終わって今感想を書き殴っています。
ジャンルとしては、100万回は読んだ大流行の異世界転移ファンタジーです。でも「爪で魔法を使う」という世界観に直結した「爪塗り」という独自の職業を創作したことで、目新しさが失われていません。絵としては描かれているけど、言葉ではしっかり説明されてない/かなりサラッと物語に出てくる設定が多いという演出の手法も想像の余地が広がり、めっちゃワクワクしながら読めます。最初、ロッコの顔の星はただのおしゃれだと思ってたし、ホオくんに至っては泣きボクロだと思ってたよ……。
そして、人間の普遍的な感情が描かれていることもグッとくるポイント。
現代日本で空気が読めない、察することができない、気が利かないと言われて苦しんでいたサーラが、ロッコに「はっきりとネイルの出来の悪さを指摘してもらう」ことでスッキリし、目標に向かって邁進していくシーン。
サーラの爪塗りの師匠リドが、流れ者(異世界から来た人)であるサーラとなんだかんだ楽しく毎日を過ごしつつ、無意識に過去の復讐をしていたと気づくシーン(リド大好き!)。
このあたりは共感する人が多いかもしれません。
なんにせよ、地に足のついた良質なファンタジーなんです。
演出も面白くて、サーラの塗ったネイルや流れ者の特徴である「虹目」を印象付けたいシーンでは、ページ単体やコマ単体でカラーになっています。
主婦と生活社のPASH UP!というサイトで連載されているからこそ可能なWebのよさですね。電子書籍版ではカラーで収録されているのもうれしい。紙版は買っていないのですが、どうなっているのか気になる。
三角関係……なのか? 主人公サーラと魔法使いロッコ、そしてその弟子ホオ
最高だと伝えたいのは主人公サーラと魔法使いロッコ、そしてその弟子ホオの関係です。
ホオ→サーラへの思いが本当に萌える。
ホオくん、初っ端からサーラにブチギレてる登場シーンだったうえ、サーラより身長が低くて少年っぽさが印象的で……この初登場の仕方でそんなラブ展開になると思わないじゃん!!
成長が遅いことや、流れ者のサーラへ対する態度にも理由があり、交流を重ねていくことで気持ちが変化していく過程がしっかりと描かれています。
サーラがホオに猫吸いしちゃったり、ホオの看病のために一緒に娼館に泊まったり、2人で一緒に買い物したり……とホオが年上のお姉さんであるサーラを意識していくエピソード、マジで珠玉です。
わたしは年下男子とのラブストーリーが大好きなのでここだけで100億点でした。
年齢差があるので、サーラが二の足を踏んでいるというか現代日本で生きていた理性がまだ残っているので、そこを早く突き崩してほしい……ホオくんがんばれ。
そしてロッコ→サーラへの思いは……本当にわかりません(笑)。
僧兵のジヨロさんが攫われそうになったサーラを送っていくときに自分が送ると名乗り出たり、「(たぶんサーラの成長を)僕がいつまでも待ってるなんて思わないでね」と言ったり、ホオとサーラが2人で出かけたときにイライラしたりと、ロッコの匂わせにいちいち反応するわたし。
性格が悪いロッコが、「凡人に身の程を知らせるため」に人前でネイルの出来の悪さを喧伝してもサーラから感謝をされたことで、“おもしれー女”として気に入っているのは伝わってきます。
でもサーラに時折見せる攻撃性。なんとなく、ロッコはサーラのことを「当然自分のもの」だと思っている節があります。
最初に「サーラに特別な感情を抱くラブが見どころだよ」って書きましたが、ロッコに関してはラブではないかもしれない。飄々としていて、捉えどころのないキャラクターなのでどういう思いからサーラにちょっかいをかけているのかは現時点ではわかっていません。
でも、そこもめちゃくちゃよくて(笑)。
何を考えてるのかわからない最強魔法使いと、好意がバレバレな魔法使いの弟子。
この対比が物語を盛り上げていると思ってます。
ロッコが最終的にラブじゃなくてもそれはそれでいい。ラブだったら最高に美味しい。
という気持ちで、6月に出る4巻を座して待っています!