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「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」ときに読む本

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書評家・三宅香帆さんが“オタク文章術”について書いた「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」を紹介します。

ブログやSNSで好きな本の感想を書きたい、備忘録にしたいと思っている人にめちゃくちゃオススメな実用書でした。

「推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない」
目次

マンガの展開を忘れてしまうから、ブログを書き始めた

わたし30代中盤、マンガの展開を忘れっぽくなってる。

「薬屋のひとりごと」(スクエニ版)なんて大好きなのに、新刊の12巻は1ページ目から「どういう展開だったんだっけ?」と覚えておらず、復習のために11巻に手を出し、やっぱり記憶がぼんやりしているので1巻から読み直す……なんてことがザラにあります。

新刊が出るたびに1巻から読んでもけっこう新鮮に読めるので、お得といえばお得かもしれない。

脳に問題が……というよりは、けっこうな量の本をぼんやり読んでいることによる(そして量を読むが故に読み直しをあまりしない)弊害かなと思っています。読んだ瞬間は面白い!と思うけど、1つひとつを深く考えることなく次のコンテンツを摂取してしまうので、咀嚼しきれないままというか。

これに危機感を持ち、「咀嚼するために本の感想を書けばいいんだ!」と今年の1月から始めたのがこのブログです。

読んだ本全部は大変なので、「ティーンズラブ小説・マンガ・乙女向け同人などを中心に書く!」をコンセプトにしました。

大好きだけど、面と向かって感想を言うには相手との距離感・TPOが重要になる(「このマンガのTNTNの形状が最高で……!!」とリアルで言える友人が果たして何人いるのか)ジャンルに絞ったわけです。

10月時点で約80本の感想を書いてきました。

私は「面白い!感想を書こう!」となったら、

  • ひたすら読んで面白いと思ったところをメモ
  • なぜそこが面白いのか?と考える
  • 文章を書く

という方法をとっています。

ほかの人はどうやっているんだろう?と思ったとき、手に取ったのが今回紹介する「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」(通称「推しやば」)です。

著者は1994年生まれの若き書評家・三宅香帆さん。

宝塚やアイドルをこよなく愛する三宅さんが書評家として培ってきた文章術を、「推し語り」に役立つようまとめたのがこの「推しやば」です。

この本の何がいいかって、「感想を言語化する前に必要なプロセス」を細かく書いてくれているところ。

私が「ひたすら読んで面白いところをメモ」「なぜそこが面白いのか?と考える」とざっくり書いたところを、もっと細分化して各工程に分け、再現しやすくしてくれているんです。

好きなコンテンツの感想を書く前にすること3つ!

「推しやば」では、「自分の大好きなものについて、自分の言葉で伝える」ことの重要性と面白さを伝え、その方法を事細かに示してくれています。

「自分の大好きなものについて、自分の言葉で伝える」とは、つまり言語化すること。

三宅さんは、言語化とは「どれだけ細分化できるか」ということだと説きます。

言語化=どれだけ細分化できるか

そして細分化とは、自分が心を動かされた箇所を細かく具体的に挙げることだと書かれています。

大好きな「来世は他人がいい」で私なりの「よかった箇所の細分化」の例を挙げます(キリがないので8巻の内容に絞ります)。

  • 今まで小出しに匂わされてきた「霧島が吉乃に執着する理由」が8巻で明かされたところ
  • ほかの女といても吉乃の写真を見ながら足をパタパタしてテンション上がる霧島
  • ラブストーリーなのに、ヒロインの吉乃が恋をする未来が全く見えないところ
  • 吉乃のためなら大嫌いな霧島からの呼び出しでもすぐに東京に来ちゃう翔真
  • 「わたしは殺されても意地でも死なん」の箇所。自分のプライド、体面、美学のために命を張る吉乃のカッコよさと異常性
  • いままで何も怖いものはなかったのに、「吉乃が死んだらどうしよう」と失くすことへの恐怖を理解してしまった霧島

書ききれん……!

前述したように、私が「推しやば」で素晴らしいと思ったのは「感想を言語化する前に必要なプロセス」を書いてくれているところ。

「感想を言語化する前に必要なプロセス」は下記の3段階に分けられます。

感想を言語化する前に必要なプロセス

①よかった箇所の具体例を挙げる

②感情を言語化する

③忘れないようにメモする

「来世は他人がいい」8巻の感想を言語化する前に、「よかった」箇所をできるだけ細分化して挙げました。つまり「①よかった箇所の具体例を挙げる」ですね。

その後、「②感情を言語化する」、そして「③忘れないようにメモする」という過程を経て、「推しの素晴らしさ=作品の感想」を言語化していきます。

「推しやば」では①〜③それぞれの具体例と気をつけるべき点などが挙げられています。

ざっと骨子をまとめます。

①よかった箇所の具体例を挙げる

細かければ細かいほどいい。感想のオリジナリティは細かさに宿る。

例:好きな/好きじゃないキャラクター、印象に残ったセリフ、なんかすごく心に残っている場面、びっくりした展開、結局最後までよくわからなかった心情

※無理してよかった点だけを挙げるのではなく、違和感を覚えた点も含めて挙げることで、より自分の感覚を深く言語化できる。

②感情を言語化する

その1 どういう感情を抱いたのか

その2 どうしてその感情を抱いたのか

  • 抱いた感情がポジディブだった場合
    • 「共感」の場合
      • 自分の体験との共通点を探す
      • 好きなものとの共通点を探す
    • 「驚き」の場合
      • どこが新しいのか考える
  • 抱いた感情がネガティブだった場合
    • 「ポジディブだった場合」の逆を言語化する(例:どこがありきたりだったのか考える)

と言った具合。

好きな本の感想を書きたい人にとって、ここまでプロセスを言語化してくれているのはかなりありがたい。まさに“実用書”です。

面白さとは「共感」or「驚き」

  • 共感…自分も同様の体験や感情を知っていて、それをぴったりくる言葉にしてもらったことへの快感
  • 驚き…未知の手法に出会ったときの快感
  • 逆転させると、面白くないものは「不快」or「退屈」

「面白さとは共感or驚きである」という考えは、歌人・穂村弘さんの「短歌の友人」に書いてあるそう。これも読んでみたい。

本の感想を書いて、新鮮な「好き」を保存する

何度も書くように上記は「感想を言語化する前に必要なプロセス」です。

つまり、この後「感想を言語化する」ことが必要になってきます。というかそれが本題。

最初に挙げた私の感想の書き方だと、一番下の「文章を書く」という部分です。

  • ひたすら読んで面白いと思ったところをメモ
  • なぜそこが面白いのか?と考える
  • 文章を書く

もちろん「推しやば」では、その「感想を言語化する」テクニックについてかなり詳細に説明しています。

個人的には三宅さん自身の書いた文章を使った添削例や、詩人の最果タヒさん、作家の三浦しをんさん、英文学者の阿部公彦さんの“推し語り文”を「文章のプロによる例」として読ませてくれたのが参考になりました。

私はブログで本の感想を書くようになってから、

  • 自分が何に萌えるか
  • 自分はどういうストーリー展開が好きか

が以前よりも明確にわかるようになりました。

もちろん前から「こういう話好きだなあ」とぼんやり思っていたのですが、「体格差、体力差、身分差といった『差』、つまり『キャラとキャラの埋められない違い』から生まれる展開がはちゃめちゃに好き」「ヒーローがヒロインをどれだけ好きかが知りたいので、ヒーロー視点で物語が進むと萌える」「やばい男の執着を読みたい」など、言語化したことで自己理解が進んだんですね。

また作品に対する理解も深まりました。一読したときは「それほどでもないかも?」と思っていたのに、ブログに感想を書くかどうか吟味するうえで何度も読んだら作者の意図に気づいて「え、面白いじゃん!」となったり。

そして一番「感想書いてよかったな〜」と思うのが、「ブログを読むと、自分がその作品のどこが好きか」を簡単に思い出せることなんです。

最初に「忘れっぽくなった」と書きましたが、たとえ忘れたとしてもブログにそのときの「感情・感想」を記録することで「そうだ、私はここに萌えて、こういうことを考えたんだ!」と事細かに思い出せる。

まだ感想を書き始めて1年経っていないのですが、最初のほうのブログ記事などはけっこう「へー」と自分でも新鮮に読めることがしばしば(つまり忘れてる笑)。

なので感想を書くのは個人的にとてもおすすめで、「推しやば」はかなり感想を書く助けになってくれると思います。

「推しやば」には「『好き』は一時的な儚い感情である」と書かれています。

「好き」の言語化が溜まってゆく。それは気づけば、丸ごと自分の価値観や人生になっているはずです。

「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」

儚いからこそ、その「好き」を鮮度の高いうちに自分の言葉で保存しておくことが大事。

「好き」を語ることの重要性を再確認させてくれる1冊でした。

ちなみに、「推しやば」は「好きなコンテンツについて言語化すること」に特化した本です。「推しとは関係なく、いろいろなことを気軽に書きたい」と言う人にオススメなのがいしかわゆきさんの「書く習慣」。

「書くこと自体のハードルを下げる」ことができるTips集。こちらも読みやすかった。

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