うすくちさんのTLマンガ「隣の席の変な先輩」のレビューです。「TLって、どれも似たような感じでしょ?」と思っている方にぜひ読んでほしい、ぶっ飛んだ作品です。イロモノではありますが、同時にすごく面白い。このレビューが購入を迷ってる人の参考になるとうれしいです。
あらすじ
「不気味でキモいのに、なぜかカワイイ。」
三度の飯よりイケメンが大好き。
そんなまゆみが異動してきたのは社内で一番美形が多い営業部。
イケメンに囲まれウハウハな毎日を送っていたが、たった一人、まゆみを悩ませる“男”がいた…。
隣の席に座る朝日向明男(あさひな あきお)。
まゆみに好意を寄せるこの男は、気持ち悪いほど粘着質な危険人物だった!!
振り向けば、いつもそこには彼が──。
ネチネチ、ウダウダ、挙動不審、気持ち悪い……こんなヒーロー、ほかにいます?
ティーンズラブって、どんな作品も究極的には「ヒロインがヒーローに溺愛される」が骨子だと思うんです。要は恋愛におけるシンデレラストーリー(成功物語)です。
そのヒーローの職業が軍人だったり、神様だったり、皇帝だったり、CEOだったり、性格がワイルドだったりクールだったりでキャラ付けはまったく変わりますし、世界観や設定、シチュエーション、テーマ性で独自の魅力を出すのもTL作家の腕の見せどころ。バリエーションは無限にあります。
でも、骨子が同じものを読み続けているとマンネリに感じてしまうことも。
「同じようなタイトルで、同じようなストーリーの本が多い」なんて思ってる人もいるかもしれません。
そんな人にオススメなのが「隣の席の変な先輩」です。
「恐怖…。思い込みの激しい根暗ストーカーが、犯罪スレスレで迫ってくる──!」
「気持ち悪いほど粘着質な危険人物だった!!」
「振り向けば、いつもそこには彼が──。」
これ、ホラー作品のキャッチコピーではなく、全部出版社が「隣の席の変な先輩」のヒーローこと朝日向明男を紹介した文章です。
ティーンズラブ作品のヒーローに付けるキャッチコピーではない。
ただ、読むとわかります。本当に朝日向は「思い込みの激しい根暗ストーカー」で「気持ち悪いほど粘着質な危険人物」で「犯罪スレスレ」(というかほぼ犯罪)行為をしてきます。
王道のティーンズラブ作品ばかり読んでいるとなかなか味わえない、ネチネチ・ウジウジした現代の社会人男性のヒーローなんです。
ついでに言うと、作者のうすくちさんの“気持ち悪い男”への解像度が高いのか、けっこう本気で気持ち悪い(笑)。
悪口ばかり書きましたが、「隣の席の変な先輩」を読んでいると、いつの間にか朝日向にハマっている自分に気付きます。
主人公のまゆみが「腹筋好き」と言ったのを盗み聞きしただけで毎日200回の腹筋をし、バキバキに仕上がった朝日向。
話す口実を作りたいがためにまゆみの仕事を奪ってしまい、怒られる朝日向。
ほかの男とLINEしているまゆみに向かって、「あんなに俺のこと可愛いって言ったくせに…!!」と泣き叫ぶ朝日向。
「気持ち悪い」と「健気で可愛い」の2つの気持ちを反復横跳びしてしまう、新感覚なTLヒーローなんです。
連載は2021年7月で止まってる…でも全力でオススメしたい
「隣の席の変な先輩」は「BABY G-Side」という電子レーベルで発表されている作品です。
(余談ですが「BABY G-Side」は「男性キャラのセクシーさに特化した大人女性向けNLレーベル」とのこと。朝日向を見てると「男性キャラのセクシーさ……?」と首を傾げてしまう)
「隣の席の変な先輩」はKindle、Renta!、DLSiteなどの電子サイトで単話売りされており、2021年11月時点でシリーズ200万ダウンロードを突破している人気作。2021年には紙の単行本になっています。なんと声優のテトラポット登さんが声をあてたシチュエーションCD付きの単行本も。私は単話で全部買ったうえ、電子版の単行本も購入しました。単行本には1話〜5話に加え、描き下ろしが載ってるんです。
このように前途洋々なのですが、実は2021年7月配信の第7話を最後に新エピソードが出ていません。
続きを……続きを出してほしい……!
読者はただただ7話の最終ページにあった「To be continued」とうすくちさんを信じ、配信済みのエピソードを何度も何度も読んで待つのみです。
連載が止まっている、未完の作品はなかなかオススメしづらい。この作品を気に入ってもらえたら、続きが読めないもどかしさも味わわせることになるから。ただ、7話までのストーリーは唯一無二の読み心地で、笑ったりキュンとしたり気持ち悪がったりと息を吐かせぬ面白さです。しかも、7話で一応2人の関係に変化が生まれます(まゆみが躾のなってない犬こと朝日向のブリーダーとして開花するとも言う)。尻切れトンボのシーンで止まっているわけではないので、少しでも気になった方はぜひ1話を読んでみてください。
なお、うすくちさんは「転生令嬢は初恋の次期伯爵に婚約破棄を申し出る」(黒田美優)や「最強騎士様と大人の二人旅」(山野辺りり)といったTL小説の挿絵も担当しています。創作活動を止めているわけではないところも、続きに希望が持てる理由です。
↑こちらは電子版の単行本。1話〜5話と、描き下ろしマンガが収録されています。
↑紙版の単行本。紙派の人はこちらを。
↑こちらは単話売りの第1話。第1話のみが読めます。
[2023年1月21日追記]
うすくちさんからの近況報告が……! 「隣の席の変な先輩」の続き、のんびりお待ちしています(ご多忙とのことなのでご無理なさらず…)。