ジュリー・ガーウッドが2023年に亡くなっていたことを最近知りました。
1985年にデビューしたアメリカの人気ロマンス作家で、総発行部数は4000万部以上。2001年から邦訳されてきたこともあり、翻訳ロマンス好きには有名なベテラン小説家です。
彼女の最後の作品となった「不滅の愛に守られて」が8月に翻訳・刊行され、ようやく読み終わりました。
それについて語る……のではなく、個人的ベスト・ジュリガ作品の「ほほえみを戦士の指輪に」を激推ししたい! なぜならジュリガ作品は繋がっているから……!
「不滅の愛に守られて」単体でも問題なく読めるのですが、ジュリガの中世ハイランド作品を読んだ後のほうがその壮大さに気づくと思うから!
ジュリー・ガーウッドってどんな作家?
訳者・鈴木美朋さんのあとがきが素晴らしい
ジュリー・ガーウッドがどんな作品を書いてきたのかをご紹介します。が、その前に翻訳ロマンス小説の「訳者あとがき」についてサラッと触れたくて。
多くの翻訳ロマンス小説には「訳者あとがき」が掲載されています。作品やシリーズの紹介、作者の経歴や近況、海外ロマンス事情などが書かれており、私にとっては翻訳ロマンス小説のおつまみ的な楽しみのひとつ。英語が読めない私の翻訳ロマンス知識はだいたいあとがき由来で、ジュリガの経歴などもあとがきから情報を得ています。
「不滅の愛に守られて」に収録された訳者・鈴木美朋さんのあとがきは力の入った名文でした。
鈴木美朋さんは多くのジュリー・ガーウッド作品を翻訳してきた訳者で、「不滅の愛に守られて」や私の最推し「ほほえみを戦士の指輪に」も担当されています。
やはり鈴木さんご自身もキャリアの初期から手がけてきたジュリー・ガーウッド作品に思い入れがあるようで、「不滅の愛に守られて」の訳者あとがきでは5ページにわたり、ガーウッドの経歴の紹介と、彼女の功績を称える文章を綴っています。
いまアメリカでは若い世代を中心に新しい感覚のロマンス小説がブームになっています。そのような時代にあって、ガーウッドの作品はオールドファッションかもしれません。けれど、彼女が後続の作家たちに影響を与え、現在の隆盛の土壌を作った偉大な先達のひとりであることは言をまたないでしょう。往時のロマンス小説の香気すら立ちのぼるこの作品を、以前からのファンのみなさまにはもちろん、新しい読者のみなさまにも楽しんでいただけるよう願っています。
一部だけ引用しましたが日本語が美しい……。mirabooksさんにネットであとがき全文公開してほしい。
現代ものと中世ハイランド作品のつながり
話を戻します。
ジュリー・ガーウッドは大きく分けて、4つの時代のロマンス作品を書いてきました。
- 現代(コンテンポラリー)
- 中世ハイランド
- 19世紀初頭のイギリス摂政時代(リージェンシー)
- アメリカ西部開拓時代
コンテンポラリーの代表作は、ブキャナン兄弟シリーズ。
その名の通り、ブキャナン家の兄弟姉妹をそれぞれ主人公に据えたシリーズものです(ブキャナン兄弟が出てこないスピンオフもあります)。
共通しているのは「文庫の表紙に女性の美脚が写っている」ということでしょう(「美脚の女性」ではなく「女性の美脚」です)。
シリーズの内容をめっちゃくちゃざっくり言うと「司法&軍のエリート男と困難に陥ってる美女のラブストーリー」。
ブキャナン一家は判事、連邦検察官、FBI捜査官、警察署長、空軍、海軍etcが揃うスーパーエリートファミリーでして、シリーズでは兄弟姉妹それぞれの恋愛が描かれています。ちなみに「不滅の愛に守られて」のヒーローは、アメリカ海軍の特殊部隊・SEALs出身で弁護士資格も持つハイスペ五男マイケル・ブキャナンです。
そして、実はブキャナン一家の先祖はスコットランドのハイランド地方に住んでいました。
先祖の名前はブロディック・ブキャナン。
ジュリガが1980年代末から1990年代にかけて執筆していた、中世ハイランドものに登場するハイランダーです。
彼がヒーローとして描かれた作品は「黄金の勇者の待つ丘で」ですが、同じく中世ハイランドを舞台にした「ほほえみを戦士の指輪に」や「広野に奏でる旋律」でも存在感を発揮しています。
ブロディック率いるブキャナン氏族には、マッケナ氏族という敵がいました。そのマッケナ氏族の子孫が、「不滅の愛に守られて」のイザベル・マッケナ。
そう、マイケル・ブキャナンとイザベル・マッケナは仇敵の子孫同士なのです!(ちなみにマイケルの兄とイザベルの姉も結婚しているので、子孫同士の相性は抜群)
もちろん子孫たちはそんな中世ハイランド事情を知らないので、「不滅の愛に守られて」ではブキャナン氏族とマッケナ氏族のいざこざには触れられておらず、ジュリガ読者だけが知るお楽しみ情報です。
でも知っていると、イザベルとマイケルがハイランドを旅する展開に悠久の時の流れを感じたり、道中でふたりがたびたび耳にするクラン情報にニヤリとしたり。
そんなジュリガ作品は繋がっていることが多いので、そんな楽しみ方もできます。
「ほほえみを戦士の指輪に」で描かれた女の友情が最高!
さて、前情報が長くなりましたが最推し作品「ほほえみを戦士の指輪に」の素晴らしさについてです。
私は二次元の男女の恋愛が三度の飯より大好き!なので、基本的に物語は「男女の恋愛」を楽しみに読み進めます。
でも「ほほえみを戦士の指輪に」は、主人公カップルの恋愛も大変美味しいのですが、それ以上に女の友情、もっと言うと女性同士の連帯を描いた物語として素晴らしいものに仕上がっています。
本作の舞台は13世紀初頭、ヒロインの名前はジュディス。
彼女は幼い頃に知り合ったフランシス・キャサリンと、無二の親友として長年友情を育んできました。
ジュディスはイングランド人で、フランシス・キャサリンはスコットランド人。当時、イングランド人とスコットランド人は敵同士でお互い憎しみ合っていました。けれどジュディスとフランシス・キャサリンは4歳と5歳の時に国境のお祭りで出会い、交流を重ねてお互いを信頼し合ってきたのです。
フランシス・キャサリンの祖母も母も難産で死亡したため、フランシス・キャサリンは自分も出産で死ぬ可能性が高いと思っています。お産の時には自分のそばにいてほしい──というのが、フランシス・キャサリンとジュディスの大切な約束でした。
親友を失いたくないジュディスは何人もの助産婦に話を聞き、出産の知識を蓄えます。
そしてフランシス・キャサリンはスコットランドのハイランド地方へ嫁入りし、妊娠。夫にお願いしてイングランドにいるジュディスに約束通り迎えをやろうとしますが、夫を含めハイランダーたちはイングランドに住む未婚の女性が敵地であるハイランドへ来るとはとても思えませんでした。
フランシス・キャサリンの夫の兄であるイアンは、“イングランド娘”が約束を守るとは考えておらず、誘拐することになると思いながら迎えに行きます。しかし、イングランドで彼を待っていたのはフランシス・キャサリンのために準備万端・やる気満々のジュディス。
ハイランドへの厳しい道中も弱音を吐かず、友情のために敵地ハイランド入りを果たすのです。
ジュディスとフランシス・キャサリンがハイランドで久々に再会するシーンは、毎回涙ぐむほど感動します(何度も読んで展開わかってるのに!)。
何年も離れ離れだったため緊張していた2人が、ジュディスのアイスブレイク──というとビジネスっぽいですが、とある言葉をきっかけに一気に緊張が解け、再会の喜びを爆発させるんです。本当に大好きなシーンです。
ほかにも、閉鎖性の高いクランに嫁いだため母と何年も連絡が取れず、親しい友人もいなくて寂しい思いをしているイザベル、夫が死んで頼れる人がおらず、わんぱく盛りの息子を持て余すシングルマザーのヘレンらとジュディスは友情を築いていきます。
またフランシス・キャサリンが嫁いだクランでは女性たちに休日がなかったり、女性が一人前とはみなされず会合での発言権がなかったりする状況を、ジュディスは少しずつ変えていきます。
何度読んでも胸が温かくなる、さいっこうのストーリーなのでぜひ読んでほしいです。
2008年に刊行された本で、残念ながら版元のヴィレッジブックスはもうないので新刊では手に入りません。中古でもし見つけたら迷わずゲットをオススメします。
さて、「不滅の愛に守られて」の感想も少々。
正直に話すと、ジュリー・ガーウッドの描くヒロインって私には当たり外れがあります。天然で強情なヒロインが多いのですが、それが愛せるか愛せないかは読んでみないとわかりません。
「不滅の愛に守られて」のイザベルはけっこう王道のジュリガヒロインという印象で、最初はとっつきづらかったのですが、終盤のとあるシーンで爆笑して好きになりました。
ネタバレかも知れないので少しぼかすと、この曲を思い出しました(笑)。