「わたし、定時で帰ります。」などで知られる小説家・朱野帰子(あけの・かえるこ)さんの同人誌を紹介します。タイトルは「急な『売れ』に備える作家のためのサバイバル読本」。
仕事量にアップアップしている人(わたし……)にめちゃくちゃオススメの“技術書”です。
「急な『売れ』に備える作家のためのサバイバル読本」とは
「急な『売れ』に備える作家のためのサバイバル読本」は、作家の朱野帰子さんが出した同人誌。
2023年5月21日に池袋サンシャインシティで行われた、技術系の同人即売会「技術書典14」が初出です。私はたまたま「技術書典14」に遊びに行っていたのでゲットしました。
今はAmazon(電子)、BOOTH(紙/電子)、技術書典(電子)でも購入できます。
この本の内容は、小説「わたし、定時で帰ります。」がTVドラマ化して“売れた”……つまり作品と作者名が多くの人に知られ、たくさん重版がかかり、読者が増え、書店で本が置かれ、メディアにも取り上げられるようになった朱野さんの経験談。
「急な『売れ』に備える作家のためのサバイバル読本」には、下記のことが書かれています。
- 新たなプロジェクト(=自作のTVドラマ化)に参加することになって、どのような仕事が新たに降ってきたか
- 仕事内容の変化と業務量の増加に伴い、やったこと、やってよかったこと、やればよかったこと(仕事・プライベートともに)
- 仕事内容の変化と業務量の増加で、精神的に追い詰められたときの気持ち
- 労働意欲を失った際の回復について
「なぜ技術系の同人即売会で売ったの?」と思われるかもしれませんが、急な「売れ」が来たとき、そしてその後精神的に落ち込んで小説が書けなくなった際にどうやって朱野さんがサバイブしたのか、その“技術”が詰め込まれています。
タイトルは「急な『売れ』に備える作家のためのサバイバル読本」ですが、私は作家以外の労働者にもすごく有用な本だと思いました。
特に、急に業務量が増えた人や異動・転職などで仕事内容が変わった人……要は仕事でアップアップしている人に、朱野さんの技術は役立つと思います。
というか、まったく作家ではない私にかなり参考になる本でした。
「自分だけで解決しようとしない」ことの大切さ
「急な『売れ』に備える作家のためのサバイバル読本」を読んで私が「すごくいいな」と思ったのは、「自分だけで解決しようとしない」という点です。
朱野さんは“急な「売れ」”が来たことで、慣れない仕事、超人的な業務量に忙殺されます。この本には、その慣れない仕事、超人的な業務量に対応するために「事前に備えていたこと / 備えておけばよかったこと」が細かく記されています。
また、バーンアウトしてしまった後……それまで熱心に仕事に取り組んでいた朱野さんが、労働意欲を失ってしまった後に「回復のためにしたこと」も書いてくれています。
その中には、もちろん「新作プロットのストックを作っておく」「広報宣伝の勉強をする」といった自助努力も多いのですが、
- 家事代行サービス / ベビーシッターサービスを利用する
- 担当編集者に頼る
- メンターを複数人探しておく
- 税理士を見つけておく
- 精神科医に頼る
- 異業種の友人を大切にする
といった、他者に頼るものも多いのです(本ではこれらひとつひとつについて詳しく説明してくれています)。
お金を払ってサービスを利用する。専門家に任せる。誰かに悩みを聞いてもらう。
仕事でもプライベートでも、「1人で抱え込まない」ことが大事ということはよく言われています。ただ、これがけっこう難しい。追い詰められているときは視野が狭くなりがちですし、追い詰められた後に取れる選択肢って少ないですしね。
でも朱野さんは「事前に備えておいたこと」なども明かしているので、「今はちょっと仕事に余裕があるから備えておこうかな」と心構えできますし、「バーンアウトした後」のことも赤裸々に書いてくれているので追い詰められたとき(もちろんそこまで行かないのがベストですが)に朱野さんがどうやって回復したかも参考になります。
それに「実際に自分はこうした」と具体例をいくつも書いてくれているので、読んでいると他者・サービス・専門家に頼ることへのハードルが下がります。「自分だけで解決しようとしない」ことが有効な選択肢の1つだと理解できるんですね。実際、私も「この仕事、効率化できないかなあ」と悩んで同僚に相談したりしていたのですが、プライベートで異業種(IT系)の人に愚痴ったら一瞬で解決方法を提示されたことがありました。異業種の知り合い、大事。
この本を読んで、私は自分が抱える仕事への悩み……というかモヤモヤに、前向きに対処しようという気持ちになれました。仕事でアップアップしている人にオススメです。
本の中で紹介されていた本をいっぱい買ってしまった……。
余談ですが、朱野さんのnoteも面白いので紹介しておきます。「技術書典14」に参加したときの思い出を書いた「売り子さんになってくれた担当編集者さんに助けられた話」、オーバースペック売り子(編集者)の優秀さがすごいです。