春日部こみとさんは2013年に商業デビューした小説家です。
デビュー作はアルファポリスのエタニティブックスから刊行された「あたしは魔法使い」。
デビュー以来、主にティーンズラブジャンルで現代もの、ヒストリカル、ファンタジー作品を上梓しています。2023年でデビュー10周年!めでたい!
とっっっっっても好きな作家さんの1人で、春日部こみとさんの作品はだいたい作家買いします。
「こみと」というペンネームを漢字で当て字にすると「埖兎」だそうです。「埖」って珍しい漢字ですよね。訓読みで「ごみ」。意味はそのまま「ごみ・ほこり」です。
今回レビューする「三年後離婚するはずが、なぜか溺愛されてます」は、そんな春日部こみとさんと、これまた大好きなイラストレーターのウエハラ蜂さんがタッグを組んだティーンズラブ小説。即買いでした。
イケメンが恋して一人相撲をしている姿、ずっと見ていたい
春日部こみと作品の何が好きなのか。
いろいろあるのですが、私が一番魅力を感じているのは切ないストーリーです。
キャラクターとストーリーは不可分だと思っていますが、私はかなりキャラ萌えする人間。基本的にはどのレビューでも「ヒーローカッコいいいいい!」と叫んでいるのですが、春日部こみと作品はストーリーに引き込まれることが多いです(もちろんヒーローもカッコいい)。
起承転結がしっかりしていて、冒頭でグッと心と興味をつかまれ、カップル2人の仲の深まりとすれ違いにドキドキハラハラヤキモキし、予想不能な展開に仰天し、畳み掛けるように収束していく物語に大満足する。
そんな読書体験を堪能したいとき、春日部こみとさんの作品を読むことが多いです。
「三年後離婚するはずが、なぜか溺愛されてます」もそんな小説の1つ。
物語は、ヒロインのハリエットとヒーローのアーヴィングが政略結婚をするところから始まります。ただの政略結婚ではなく、アーヴィングはいきなり「これは形だけの結婚」とはっきりハリエットに伝えます。
アーヴィングはある理由から子供を持つつもりがなく、つまりハリエットを抱かない、と初夜に宣言。「3年経っても子供ができなければ離婚が認められる」という貴族のルールを使い、3年後に離婚すること、その代償としてハリエットには離婚後は別荘と金を渡すことを伝えます。
政略結婚とはいえ、妻になった女性にいきなりひどいですよね(笑)。
アーヴィングは憎悪している母親の影響から、女性に対してかなり偏見を持っている、というのも物語のポイント。当然結婚にはまったく乗り気ではなく、今回結婚することになったのも王妃の命令なので止むに止まれず。妻になるハリエットにも最初は全然興味がなく、結婚式当日まで顔も見せないどころか名前も覚えていませんでした(ハリエットの親戚の事情で、途中で花嫁が替わったというのもありますが)。
そんなアーヴィングですが、ハリエットの小動物のようなあどけなさ、かわいさ、前向きで思いやりのある性格にあれよあれよとメロメロに(笑)。
他人を信頼せず、人間に興味がなく、特に女性に対して偏見を持っているのにハリエットだけは特別扱いして大切にします。
気持ちを心の中だけに留めて置けず「かわいい」を連呼してしまう姿、ハリエットの一挙手一投足(特に寝相)にドキドキ・あわあわし、据え膳を食おうか悩んだり、しどろもどろになってまう様子、最高に面白い。
イケメンが恋して一人相撲をとってしまうの、いいですよね……。
ちょっと孤高の厨二病的なところがあるキャラクターということも相まって(かわいがっているペットの名前が「深淵の黒き炎(ダークフレイムオブジアビス)」)、なんというかハリエット推しのオタク感がありました。
このレビューを読むとラブコメディだと思うでしょうが(実際ラブコメディなのですが)、ハリエットにもアーヴィングにも悲惨な過去があります。そこでアーヴィングは歪み、ハリエットは前向きに楽観的にしたたかになった。悲惨な過去と、それに対するキャラクターの反応も物語に深みを与えていて、彼らの言動にも納得感が出ているんです。
ネタバレになるのでエッセンスだけの羅列ですが、仕立て屋デートでのアーヴィングの嫉妬・独占欲とハリエットのかわいい食欲、舞踏会でのバーサーカーモード突入、そして諸悪の根元である母親のご乱行からの大波乱(読者としては母親が媚薬を盛るという暴走からの展開が美味しすぎて「ナイス!」と喝采を贈った)、「英雄」呼びのじんわりとした感動など、最後まで盛り上がりが多くて終始ワクワクしながら読破しました。
俺たちのゼロサムオンラインでコミカライズ
ウエハラ蜂さんの表紙イラストも超良くて。
小説の魅力をより高めてくれるイラストレーターさんだと思っています。今回のヒーロー・アーヴィングは恐ろしいほどの美丈夫という設定なのですが、ウエハラ蜂さんのイラストを見ると「この美貌はやばすぎる……」と説得されるし、ハリエットも「このかわいさにはアーヴィングもお手上げだよね」と素直に思える。中面の挿絵イラストも最高でした。表紙のハリエットが抱いているのがキンカジューの深淵の黒き炎(ダークフレイムオブジアビス)です。かわ。
ちなみに、ウエハラ蜂さんがイラストを担当しているTL小説もいろいろレビューしています。
また「三年後離婚するはずが、なぜか溺愛されてます」は、2023年4月からコミカライズもされています。
連載媒体は俺たちのゼロサムオンライン。
ゼロサムオンラインのTLコミカライズに圧倒的な信頼を置いています
コミカライズの担当は咲宮いろはさん。「嵌められましたが、幸せになりました-傷物令嬢と陽だまりの魔導師-」や「男装令嬢の不本意な結婚」といった小説のコミカライズで実績のあるマンガ家さんです。
ゼロサムオンラインで一部無料公開されているので、まだ読んでいない方はぜひチェックしてみてください。
え、続編……?
そしてこのレビューを書くので調べていたら、9月5日発売で「三年後離婚するはずが、なぜか溺愛されてます~蜜月旅行編~(仮)」が刊行予定というのを発見しました。
待って、うれしすぎる……。
ソーニャ文庫は電子書籍限定で、「Sweet Days」という人気作の番外編シリーズを出しているのですが、「三年後離婚するはずが、なぜか溺愛されてます~蜜月旅行編~(仮)」は336ページもあるみたいなので番外編シリーズではなく、1冊の続編だと思います。
正式なお知らせはまだだと思うので修正する可能性もありますが、またアーヴィングとハリエットの物語が読めるの本当に楽しみだ……。
8月4日追記:ソーニャ文庫の公式サイトで正式にお知らせが出ていました! 続編、うれしい!