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「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」(あさぎ千夜春)【TL小説レビュー】

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「美しく傲慢な男が己の愛に屈して女性に膝を折る話」が大大大大大大好きというあさぎ千夜春さんの「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」。私も2次元の傲慢男が愛に屈する姿が大好きなので、このお話も楽しく読みました。

グッと来たシーンもいろいろあったのでレビューしていきます!

「面白い!」と思った箇所を説明するとどうしても多少ネタバレが入ってしまうので、もしなんの先入観もなく読みたい方は先に本を読んでくださいね。

目次

あらすじ

家族に虐げられ屋根裏部屋に住む伯爵令嬢・セレスティアのところへ、十年前に自分を一方的に捨てた元夫・アルフレッドが迎えに来た。当時第六皇子だった彼はなんと、次期皇帝に成り上がっていて!?

尊大な態度に初めは反発心を抱くセレスティアだったが…。

「この十年、お前を傷つけたことを忘れたことはない」

アルフレッドから悔いるように真相を告げられ、とめどない感情が湧き上がり…。

「俺の心を癒せるのは、生涯でお前しかいないんだ」

傲慢で孤独な次期皇帝が清らかな姫にかしずく。かけがえのない愛の物語。

5歳で結婚して、12歳で離婚する猛スピード人生

読み初め、「はいはい、義母と妹から虐げられている系のヒロインね。了解!」と一瞬で導入部を把握。

家族から使用人扱いされているヒロインが描かれた導入部は、シンデレラストーリーの定番とはいえ今は本当に数が多すぎるので賛否あると思います。でも私は「気軽に萌えるラブストーリーを摂取したいなあ」というときにTL小説を選ぶことが多いので、労力なく物語に入っていける定型の導入はけっこう好きです(婚約破棄もの、追放もの、悪役令嬢ものなども定型の導入部が多いですよね)。定型の中でどれだけ差を出せるか、面白みを出せるかで作者の力量が出る部分でもあります。

本作で最初に「面白いなー」と思ったのが、ヒロインのセレスが1度離婚しているところ。しかも5歳で結婚して、12歳で離婚。ファンタジーとはいえ、人生猛スピードすぎる!

相手は遠く離れた帝国の第六皇子・アルフレッド。セレスが5歳のときに21歳だったので、16歳差です。もちろんこの結婚で2人は夫婦というより兄妹のような関係で、アルフレッドはセレスを大変かわいがりました(年齢を考えれば当然ですが、肉体関係もありません)。冴えざえとした美貌と恵まれた体格、そしてよく笑うアルフレッドは天性の人たらしで、老若男女関係なく人を惹きつける存在ですが、第六皇子という微妙な立場&母親が小さな部族出身ということで常に気を張っていました。損得関係なく気を許せるのが幼妻セレスだけ……という哀れさ。

しかし、とある理由でセレスと離婚します。そのとき、セレスには「お前が邪魔になった」と冷めた眼差しで一方的に言い放つのです。ひどすぎて逆に笑いました(笑)。

そしてセレスが母国に帰って10年、22歳になったときに今度はいきなり再婚を要求。

アルフレッドが離婚を決意したとある理由とは、簡単にいうとセレスが弱点になったから。10年経って皇太子になり、何があったも守れる力がついたので迎えに来たとのこと。

自分の都合ばかりを押し付けて再婚を迫るアルフレッドの口説き落とし、本当によかったです。一部引用します。

「ああ、そうだな。俺は本当に傲慢な男だ……! 自分が幸せになりたいから、お前を手放したくないと思っている。だが俺をこんな風に狂わせるのは、セレス……お前だけなんだ!」

「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」より。

「王国に行っても、お前が再婚している可能性は高いと思っていた。どこぞの貴族に見初められ、家庭を築いていると思っていた。だが俺は、そんなことはどうでもよかった。かつての俺より大事にしているはずがない、俺のそばにいたほうが幸せになれるはずだと必死に自分に言い聞かせて、長年俺を支えてくれていた公爵に養女の件を根回しして、船に飛び乗ったんだ」

「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」より。

「人妻になっていても攫ってしまえば問題ないと思っていたが……お前が未婚でいてくれてよかった」

「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」より。

傲慢……! だけどそこがいい!

セレスは当然再婚を拒否します。1度身勝手な理由で離婚されたので、また何かの事情で切り捨てられる可能性がありますから。

というようなことをセレスが言ったとき、アルフレッドが放ったセリフ、マジで白眉。

「もう二度と、手放さない。そんなことにはならないと言いたいが、もし万が一皇帝になった俺が誰かに裏切られ、殺されるようなことがあったら、息絶える前にお前を殺す」

「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」より。

「セレスは天国行きだろうが、俺の地獄まで連れていく。死んでも離れない。だから頼む……俺を見捨てないでくれ」

「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」より。

すごい! そこまでの気持ちをぶつけられ、セレスの気持ちも軟化します。

でもアルフレッドの妻=帝国の皇妃。

離婚されてから10年、実家で使用人のように働かされていた自分に務まるのかまったく自信がないまま、セレスはほとんど誘拐同然で帝国へ(笑)。

そこで、驚くべき事実を知ります。

「側妃を迎えるのは、俺の仕事のひとつ」

なんとアルフレッドの屋敷に着くと、3人の側妃候補が現れました。

「彼女たちは俺の側妃候補たちだ」と特に悪びれもなく紹介されたセレス。

「側妃がいるって、どうして言わなかったの!」と責めると、逆に「──なぜいないと思った?」と返される理不尽。

クズ男が好きな私、このあたりでめちゃくちゃテンションが上がりました(笑)。

アルフレッドの帝国には後宮制度があるので、本作は「後宮もの」としての側面もあります。

女性向けの恋愛小説・マンガは基本的に女性1:男性1。例えば3Pものでも、女性向けであれば女性1:男性2の作品が多いです(というか、女性向けで女性2:男性1を知らないかもしれない)。つまり、女性のほうが「1」……唯一の存在というのはお約束です。

でも人気ジャンルである後宮ものでは、構造的に女性1:男性1が難しい。どうに理由をつけてそこに落とし込むか……というのがジャンルを楽しむ要素の1つになります。

例えば「天は赤い河のほとり」。主人公のユーリは正妃にはなれない(身分がない)から、ずっと側室でした。カイルは皇帝になるという野望があったので、将来的には正妃が必要になる。ユーリはそれを理解していたので、ヒッタイトに残ると決めたときも「(正妃が誰でも受け入れるから)側室は私だけにしてほしい」と言うのです。切ない。そしてなんやかんやあり、カイルは「ユーリを正妃にする」と決意。ユーリは異邦人なのでヒッタイトでの身分はないけど、女神イシュタルの化身として大勢に認められたので正妃……そして皇妃(タワナアンナ)に成り上がりました。「女性1:男性1」が難しい状況だったのを、自分の実力とヒーローの愛でねじ伏せたのです。

ほか、後宮ものの各作品では「ヒロイン以外に妃がたくさんいるけど、誰とも肉体関係がない(誰の寝室にも行かない)」とか「ヒロイン以外に妃を持たないと突っぱねる」とか、女性向けの恋愛小説・マンガとして後宮ものを成り立たせるような工夫が見受けられ、読者としてめちゃくちゃ楽しんでいます。

余談ですが、「天は赤い河のほとり」と同じく篠原千絵さんの「夢の雫、黄金の鳥籠」では、もっと大人の後宮物語が繰り広げられています。皇帝は当然いろんな妃と寝ているし、子供もいる。これはもう女性向けの恋愛マンガではなく“女一代記”や“成り上がりストーリー”という風情なので、ここで取り上げるのはちょっと違うかもしれません(笑)。同じように、コバルト文庫から刊行された少女小説「流血女神伝」の砂の覇王編でも「後宮で女性1:男性1なんてありえん!」と言わんばかりのストーリーでした。これも運命に立ち向かう主人公カリエの一代記なので、ラブストーリーとはちょっと違いますね。最高の生き様を見せてもらいました。富士見L文庫から出ている「紅霞後宮物語」もそうです。皇帝の周文林には、ヒロインの皇后・小玉ではない妃たちともうけた3人の子供がいます。

「流血女神伝」を読むならシリーズ最初の「帝国の娘」から! コミカライズもされています。
また「紅霞後宮物語」のコミカライズ版「小玉伝」も読みやすいです〜。

話が逸れましたが、「『邪魔になった』と離縁された伯爵令嬢、次期皇帝(元夫)に再婚要求される」のアルフレッドが後宮、ひいては側妃をどう捉えているか。

「側妃を迎えるのは、俺の仕事のひとつ」と捉え、側妃候補3人とも有力貴族の娘なので、皇太子になるために必要な力だったとセレスに説明。そして「俺が損得なしに欲しいのはお前だけだ。心はお前だけを愛している。それじゃダメなのか」と。

ダメに決まってるだろうが!と私の乙女心が叫びます。お前はティーンズラブのヒーローだぞ!と。

いえ、もちろんよく考えるまでもなく、アルフレッドの考え方のほうが正しいですよね。後宮制度がある国の王様であり、国の安定が第一なんだからそのために側妃を迎えるのは皇帝として正しい。

ただ、この「俺は皇帝で側妃を迎えるのは仕事。セレスもこのやり方に慣れろ/我慢しろ」という態度なのがすごく新しくて面白かったです。ヒロインに寄り添わず、自分の都合を押し付ける。

セレスは1度理不尽に離婚され、その後10年も家族から虐げられ、愛情に飢えています。だからアルフレッドの愛情がほしいのですが、死ぬまでアルフレッドの愛情を頼りにして、彼の寵愛をほかの女性と奪い合うのは地獄だとわかっています。なのでどうしても受け入れられません(そりゃそうだよな)。

セレスには我慢を強いるアルフレッドですが、副官に「逆の立場だったらどう思う?」と聞かれたとき……つまりセレスが女王で、国のために複数の夫と閨をともにするけど好きなのはあなただけと言われたら?の答えも最高でした。

「俺は……我慢ならないだろうな。男たちを自分の手で殺すだろう」

それそれ!

アルフレッドの、他人を道具や駒としてしか見ていない傲慢さ、それが許される魅力が存分に出ていて、読んでいて楽しい作品です。

セレスはどういう答えを出したのか、それは読んでのお楽しみ!

また余談ですが、LINEマンガの「愛人は逃げる」に私の好みの傲慢男がいるので、本作が気に入った人はそちらもぜひ。

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