常に「面白いTL小説読みて〜〜〜」と思っている私ですが、体調不良と仕事の多忙さで荒んでいた2月初旬、その気持ちがかなり具体的な願望となって差し迫りました。
「コメディではないけど重すぎる設定でもなく、ひと癖あるヒーローの激重感情をたっぷり味わえるTL小説読みて〜〜〜しかも疲れてるからノンストレスで読みたいよ〜〜」
そんな私の願望を見事に満たしてくれる作品があったのです。
蒼磨奏「英雄殺しの軍人は愛し方がわからない」(ソーニャ文庫)──今回は、この作品をご紹介します。
やっぱり「歪んだ愛は美しい。」というテーマを掲げるソーニャ文庫は、私の期待を裏切りません。
「英雄殺しの軍人は愛し方がわからない」あらすじ
僕は恋人らしく、お前を抱けたか?
ジェノビア帝国の将軍グレンは、罠にはまり敵国の地下牢に囚われていた。痛めつけられた彼の手当てに現れたのは、下働きの女ルネ。自らを犠牲にして献身的に尽くす彼女の真意がわからないまま、協力を得て脱獄に成功する。死を覚悟した目のルネを帝国に連れ帰ったグレンは、所有欲と愛情の区別がつかないなか少しずつ「恋人」としての扱い方を覚えていく。ルネは彼を全身で受け入れ、幸福感に包まれるが、彼女の秘された素性が波乱を呼び……。愛を知らない男×尽くす女、この想いの行き先は愛か死か……?
https://www.sonyabunko.com/books/9784781697550/
ヒーロー視点の何がいいのか
ヤバい男の内面をじっくり味わえる
本作の大きな特徴は、なんと言ってもヒーローのグレン視点で物語が進む点です。
私は、ヒーロー視点で「今ヒロインをどう思っているのか」「どれだけヤバいことを考えているのか」がまるわかりになるお話が大好き。ヤバい男の内面をじっくり味わうって最高ですよね。
TL小説の定番である、「ヒロイン視点がメインで、ヒーローの内面は行間や一部のパートから垣間見る」という状態も大変美味しいのですが、疲れていた今の私にとってヒロインの葛藤はやや重い。共感しなくても楽しめる、ヒーローが恋に惑う描写を求めていました。今回の作品は「がっつりヒーロー視点で楽しみたい!」という私の要望にぴったり!
アンバランスさが魅力なグレン
ヒーローのグレンは複雑なキャラクターです。作者の蒼磨奏さんもあとがきで「グレンは書いたことがないタイプだったのでキャラ構築がかなり難しかったです」「原稿にも過去最長の時間がかかり、だいぶ悩んで提出した記憶があります」と語っているほど。
グレンはスラム街で生まれたため、「飢えが最大の苦痛。食に困らない環境で生きたい」という明確な行動原理を持っています。情緒はほとんど発達していないので他人に興味がなく、根っこにあるのは「自分のもの(=主に食べもの)を奪うことを許さない」という獣じみた性質。
でも、彼を拾った貴族から敬語や礼儀を叩き込まれたおかげで、衣食住が保証される環境では、優秀な軍人として従順に振る舞えるのです。一人称が「僕」なので、どこか柔らかさも感じられます。
こんなアンバランスな男が、ヒロインのルネと出会い、情が芽生え、所有欲を抱くようになる──その感情の変化が、本編で存分に描かれています。
「かわいい」や「愛してる」という言葉を知っていても、実際に感じたことがなかった男が、その内面の変化を余すところなくさらけ出す。ヒーロー視点だからこそ、彼の本音がダイレクトに伝わってくるのです。
譲れないことも、ヒロインだけは特別
グレンというキャラクターのキーポイントは「飢餓」。なので、“食”に関するエピソードが随所に登場します。
例えば、口は「食べ物を詰め込む場所」と考えているため、他人との接触を忌避=キスなんて気持ち悪いと思っています。また、他人に絶対に食べ物を渡しません。でもヒロインのルネとならキスもめっちゃ気持ちいいし、ルネが痩せてるから食べ物を分け与える。「飢餓」に関する譲れない点も、ヒロインだけは特別……こういうの、めっちゃくちゃ萌えませんか?
愛情表現もまた独特です。
TLヒーローは「手放すくらいなら僕が殺す」みたいなことをよく言いますが(最高&最高)、ヒロインへの思いが深まるにつれ「愛してるから殺せない」という展開になることが多いもの。しかし、グレンは最後まで「手放すくらいなら僕が殺す」という姿勢を崩しません。
豹に気に入られて側にいるけど、リアクションを誤れば食い殺されかねない状態がずっと続く……という感じの緊張感あふれる愛なんです。
ヒロインの行動力&覚悟、◎
ちなみに、ヒロインのルネは「ザ・尽くす女」。
主体性のない尽くす女性はあまり好みではないのですが、ルネはそれとは一線を画します。グレンを牢獄から救い出すため、危険な城に下働きとして忍び込む行動力と、その目的のためなら死すら厭わない覚悟。彼女がこれほどまでグレンに尽くすのはなぜか、というのが物語の鍵になります。
というわけで、おすすめのTL小説のご紹介でした。
「コメディではないけど重すぎる設定でもなく、ひと癖あるヒーローの激重感情をたっぷり味わえるTL小説を、しかも疲れているときにノンストレスで読みたい」という方は、ぜひ一度読んでみてください。