自腹で買った本当に面白い作品のレビュー、今回は石田累さんのTL小説「愛に堕ちた軍神」です。このレビューが、購入の参考になれば幸いです。
1冊に要素てんこ盛りのシリアスファンタジー
1冊に、信じられないくらいの要素が詰まってます。
歴史に隠された盟約、1000年前の秘密、お転婆だった少女の悲しい成長と覚醒、不器用な男女の切ない恋……。

この要素を書いてるだけでワクワクする。
内容としては、シリアスなファンタジーです。
前法皇の娘アディスは、軍神伝説の残るゴラド王国の王太子ラウルのもとへ嫁ぐことになりました。
幼い頃のアディスはとある理由から、周囲に「神童」としての振る舞いを求められました。そのため厳しい英才教育を受けてきましたが、異母兄のクーデターにより状況が一変。過酷な逃亡生活は心の拠り所だった従者を失うという悲劇的な結末を迎え、数年後に人質同然に嫁がされます。
ラウルは少年時代、「神童」「軍神」と呼ばれていた頃のアディスと、馬上槍試合で戦ったことがありました。
お互いに忘れられない出会いをした少年少女が、数年後に超ドラマチックな物語を繰り広げます。



中盤までずっとBase Ball Bearの「ドラマチック」が脳内にかかっていました! 終盤は「幸せになってくれ~」とお祈りすることに忙しくてもうそれどころじゃなかった……(笑)。
18歳の王太子と20歳の元神童の初々しく切ない恋
ヒロインのアディスは20歳、ヒーローのラウルは18歳。



表紙絵のラウルはけっこう大人な感じですが、まだ18歳なんです!
アディスより年下男子なんですね。
でもイラストの通り、ラウルは年齢以上に大人びています。父王が病に倒れ、母親は敵国と一緒に不審な動きをし、諸侯はまったく言うことを聞かずにアディスを掻っ攫い、自分には「血の盟約」と呼ばれる枷がある。
もう八方塞がりもいいところで、18歳にしてこの重荷を背負ってるのか……と不憫な気持ちでいっぱいなのですが、本人は真面目に自分の役割と向き合っています。
そんなラウルが、アディスと2人きりになると年齢相応の素顔や子供っぽさを見せるんです。笑ったり、甘えたり、驚いたり。



その描写が本当に尊くて……。
ラウルが例えば世慣れた30代だったら、また物語から受ける印象がガラッと変わっただろうなと。18歳だからこその初々しい恋をしていて、読者も手に汗握りながら応援しちゃうんだろうと思います。
ラウル、アディスには丁寧な言葉を使ってるのもいい。
丁寧と言っても、例えば「気分はどうか」だったら「ご気分はいかがですか?」ではなく「ご気分はよくなられたか」みたいな、ちょっと固い言葉遣いです。
ラウルの男らしさ、真面目さ、折り目正しさ、妻への憧れの気持ちみたいなものが入り混じっていて推せる……!
ラウルとアディスはまだ若いカップルです。でもお互いはちゃめちゃに苦労の多い人生を歩んできたからか、もともとの性質なのか、浮かれたところがあまりなくて超がつくほど不器用で真面目。
2人は何度も「自分の苦労は自分だけのもの、あなたの苦労はあなただけのもの」と言うのですが、それは相手を突き放す言葉ではなく、「それでも寄り添って一緒に生きていきたい」という愛の言葉なんです。
そんな2人の恋路を見守る読者こと私は、作中でいい味出してるエスミというキャラの「恋の駆け引きさえ知らない不器用な2人が、自分にはとても愛おしいものに思えた」という言葉に共感しっぱなしでした。



エスミ、わかるよ……。
なんと3年経って後日談が発売されていた!
「愛に堕ちた軍神」は、最初からどことなく不穏な雰囲気がつきまとう物語です。



歴史の荒波に、若い2人が飲まれてしまうんじゃないかと気が気じゃない。
ひたひたと悲劇が待ち受けるような予感は、終盤にラウルとアディス(と私)に容赦なく襲いかかってきますが、こんなに2人が幸せになれるのかハラハラするTLは久々でした。
死にゆく愛しい男が、その命を燃やして輝いているという状況は、察するに余りある苦しさで……。
ネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが、つらい話は読めない人もいると思うので一言だけ。



読んだ後、私は笑顔でした!
クライマックス、アディスがすごくカッコいいんです。
やっぱり物語のヒロインがカッコいいとテンションぶち上がるので、大切な要素だと思います。
「……俺の女は、死ぬまであなただけだ。」
とか、1度目は「萌えるな~!」くらいに読んでいた言葉が2度目に読むと「どんな気持ちで言ってたんだ……」と頭を抱えることになったり、再読するとより楽しめると思います。
そして、なんと「愛に堕ちた軍神」の後日談が発売されていました!
「愛に堕ちた軍神」は2019年にソーニャ文庫から刊行されていたのですが、後日談は2022年に配信されていたので気付くのが遅れまして。
「甘い日常」をテーマにした番外編シリーズ「ソーニャ文庫Sweet Days」からの刊行だそうです。
知った瞬間に買って読んだんですが、マジでよかった……!
「愛に堕ちた軍神」の本編、ラストはちょっと駆け足気味だと思ってたんです。綺麗に終わっているんですが、もう少し物語に浸る余韻があってもよかったなって。
それが後日談でバッチリ補完されていました。
本編のラストから1年後の短編で、本当に「愛に堕ちた軍神」本編を読んだことがある人向けです。本編を読んだことがある人も、もう1度本編を読んでからすぐ後日談の読破をオススメします。
ラウルがアディスを崇めているのがわかるし、アディスの女神っぷりも磨きがかかっててよかったです~!